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獄都二居座ル狐ノ子

第9章 禄


思えば、私に親はいたのだろうか。母は?父は?
だが答えはいとも簡単に出た。
いない。いるはずない。いたらいたで不思議だ。
親というのは、少なくとも子供のときまでは付きっきりだと思っている。私が獄都に来たのは五歳くらいだったか。物心ついた時には親なんていう者は居らず、いたのは側近の者だけ。それに側近だって普通の人間だ。一日中二十四時間ついてなんてくれない。
何度独りで膝を抱えたことがあったか。
ひたすら寂しくて、心が重くなって、独りじゃどうすることもできないその気持ちはどんどん私の体を侵食していって、気づいたら涙を流していた。そんなの毎日のことだった。
それを温めてくれたあの人も…


「狐織ちゃん…?」
はっ、と我に返った。
声の主を見つけるため声の聞こえた方向を向くと、扉を開けて室内に入った佐疫が見えた。佐疫は珍しく私の顔を見て戸惑いの色を浮かべていた。
その時。 ふいに私の頬を流れるものを感じた。拭ってみると、それは水分だった。ということは、
「…涙?」
「ど、どうしたの!?誰かに泣かされたの?誰が泣かせたの撃ち殺してくるから!!」
これまた珍しくまえのめりになって荒ぶっている佐疫に慌てながら、両手で気持ちを鎮めるようにして言う。
「あ、えっと、無意識にでたものですから、誰かに泣かされたわけではありません。大丈夫ですよ。」
「そ、そっか。ならいいけど…」
肩を下ろしてほっ、と胸を撫で下ろし、外套から出していた複数のライフルとリボルバーをいそいそしまい始めた。この量をどう収めているのか、結構気になる。
「けど、本当にどうしたの?悲しいこと、思い出したとか…?」
残念なことに図星だ。
「…まあ、そうですね。ですが、問題はありませんよ、ありがとうございます。」
「んー、そっか…。俺でよければ話聞くからね?いつでも言ってね?」
「えぇ。佐疫さんは優しいですね」
自然と顔をほころばせながら言うと佐疫もつられたように笑った。
「それではそろそろ仕事に取り掛かりましょうか」
そう最後まで言わない内にバゴォンと大きな破壊音が今いる職員室に、いや、学校全体に響いた。
それをつくった人は後から聞こえた声ですぐわかった。
「舐めているのか貴様!!」

紛れもない、谷裂の声だ。
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