第2章 転落
たった一つだった。
たった一つ、この薙刀を振るっている時が何よりも幸せで生きていると実感出来た。
だから、他の事でどんなに貶されても嫌われても頑張れた。
認めてもらえなくても、褒めてもらえなくても、ただ振るっていられればそれでよかった。
――よかった、のに。
現実はとても残酷だった。
たった一度の失敗で失望され嫌われ奪われる。
世界大会……2位。
この評価が私をどん底まで引きずり落とす。
一瞬で足場が崩れ、今までの時間すべてが無駄だったのだとそう言われた気分になる。
いや、実際に言われたんだ。
「お前には失望した」
「時間の無駄だったな」
「家紋を穢すような真似をして恥ずかしくはないのか?」
「あんなに頑張ってたのにねぇ、可哀想ー」
「今、どんな気分?」
嘲笑う声と失望する声と色んな嫌なものがない混ぜになる。
気持ち悪かった。逃げ出したいと、そう思った。
感覚が麻痺しているのかもしれない。
2位だった事よりも、他人の言葉が気になるなんて。
「私、壊れちゃったのかな……」
まぁ、どっちだっていい。
どうせ今から私はーーこの青い空の元、転落してこの世を去るのだから。
「さようなら」
そう言って、躊躇うこともなく屋上から飛び降りる。
シなんて怖くない。人間生きていれば誰にでも訪れるんだから。
私は人より少し早かっただけ。
ただーー少しだけ考えてしまう。もしも、ココじゃない世界があって、そこで薙刀を振るえたら、と。
それだけが心残りで残念だった。