第2章 貴女に愛が届くまで
青年が木箱を指さした。それは両手で持つくらいの立派な木箱だ。
「ちなみにこれの半分くらいのサイズね。そうすると比較的安価で土産物として買えるってわけだ」
青年は鼻息荒く説明してくれた。だが、まだ言い足りないらしい。
「そんなものばっかり作ってたらどんどん技術が落ちていっちまう! 職人は技術を伝えるのも仕事だ! だから俺たちはずっと反対してた。――そしたら土産物に置いてくれなくなっちまって」
悔しそうに青年は拳を降ろした。怒りで手が震えている。その様子を見てアリシアはようやく合点がいった。だから、親方は市長を嫌ってもなかなかうなづけなかったのだ。アリシアは深々と頭を下げた。
「情報ありがとうございます。契約の件、必ず三日以内に送ります」
親方は青年と似た人の良い笑みでアリシアの頭をポンポンと優しく小突いた。
「おう! よろしくな嬢ちゃん!」
「はい!」
青年がアリシアに紙切れを渡す。紙には住所とマーシャ・リッツと書かれていた。
「気を付けてけよー。人のいいばあさんだけど、さっきの話聞いてるとちょっと、な」
心配なのか頭をぐしゃぐしゃになでてくる。アリシアは手をつかんでやめさせる。そしてにこやかな笑顔ではっきりと告げる。
「大丈夫ですよ。市長よりはきっと話ができると思います」
その言葉に青年は目を丸くしたが、腹を抱えて笑う。
「ちげぇねぇ!!」
アリシアは出口に立っている神田を見た。もう顔が早くしろと訴えている。出口に近づいてアリシアは振り返りまたおじぎをする。
「では、また!」