第1章 はじまり
そこはひどく寒かったことを覚えている。
息を吐けば白く、見上げると果てしなく続きそうな真っ白な円筒の場所だった。そしてアリシアと複数人の教団員は機械に乗って深く深くへ沈み込んでいく。
機械は無機質に動き、光がどんどん遠ざかっていく。アリシアは不安でずっと光を見ていたが、それも次第にかなわなくなった。光が何も見えず、暗闇になったところで機械は静かに止まった。
――怖い
だが、歯の根が合わないほど震えるアリシアを気遣うものはここにはいない。不安と恐怖からかアリシアは己を強く抱きしめ身を固くした。
ここまでみな機械的に動き、アリシアをここに連れて来るまで詳しい説明などまるでなかった。唯一の説明があったとすればへブラスカに会わせると言ったことだろう。その人物はこの暗闇の世界にいるのだという。
なぜ自分がここに来たのかはわかっている。自分は神に選ばれたらしい。
家族がそろう夕方、その人たちはやってきた。
白い服を着たその人たちは張り付いたような笑顔でこう言った。
――素晴らしい! あなたは神に選ばれた使徒なのです!
そして戸惑うアリシアたち家族は彼らの説明を受けた。アリシアは千年伯爵という人物が作る兵器、AKUMAを倒せる唯一の物質イノセンスを扱える者らしい。アリシアは幼くてあまり詳しくはわからなかったけれど、とりあえずイノセンスに選ばれたものだということはわかった。
そのことをパパとママは喜んでいた。祝福を受けたのだと喜んで、アリシアの大好きなミートパイを作ってくれた。
でも、アリシアは知っている。アリシアが寝室に入った後、二人で抱き合いながら泣いていたことを。そして神はどうして試練を与えるのかと嘆いていたことを。
だからアリシアはパパとママを見ながらひっそりと自分に誓いを立てた。
これ以上パパとママを悲しませない。
アリシアはパパからもらったレプリカの銃をロザリオに祈るようにキスをした。
――もう二度と誰かを悲しませませんように