第12章 アビリティー
side 砂月
「那月が初めて作った曲を・・・その先生に教えたんだ。誰にも言わないって約束をしてな。
・・・でも、その約束は無惨にも破られた」
『・・・まさか、その先生・・・誰かに言ったの?』
「・・・・・・それならまだマシな方だ。
数日後に発表したんだよ。見事に受賞までしてな・・・那月の曲としてじゃなく、自分で作った曲として・・・だ」
『え・・・』
「那月は、それが何か理由があったからって思い込もうとしてた。・・・でも、先生は那月になんで?って聞かれたら1度でも脚光を浴びたかったから、だとよ。
・・・挙句の果てに姿を消した」
『・・・・・・なに、それ・・・・・・』
「要するに、先生は裏切ったんだよ。
・・・自分が世間の注目を浴びたいが為に、それだけの為に・・・・・・那月が自分で初めて作曲した曲を利用しやがったんだ」
今思い出してもムカつくぜ。
もし俺が那月だったら、殴ってるところだ。
「・・・その曲のタイトルが、〝砂月〟だ。
那月が此処みたいな・・・南の島の砂浜に居た時に作ったのがその曲だ。綺麗な満月で、月夜の砂浜・・・ってやつだよ。
名前の由来は・・・造っても波で壊される、砂の城のような儚い存在。・・・それが、俺だ」
『・・・・・・そう・・・だったんだ、・・・』
「・・・・・・那月はショックだったよ。
信じていたのに裏切られて・・・・・・悲しみのドン底で、俺は生まれた。
那月の悲しみは、俺が全部受け止める・・・そう誓った」
『・・・だから、那月くん・・・自分からヴィオラを弾こうとしないんだ・・・・・・』
「・・・ああ。
それはこれからも変わらないだろうな。・・・あいつの悲しいって感情は、俺が全部・・・『・・・それで、いいのかな・・・』・・・あ?」
受け止める。そう言い切ろうとすれば、心羽は言葉を遮るように呟いた。
『・・・那月くんは、確かに性格からして繊細だけど・・・。その悲しいのを、全部砂月くんが受け止めたら・・・ダメな気がする』
「・・・何言ってやがる、俺が居ないと那月の悲しみを受け止める奴が居ないと・・・」
『それ・・・ホントに那月くんの為なのかな』
心羽の言葉に、俺は目を見開いて顔を上げた。