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シャングリラ  【サイコパスR18】

第12章 曇天


いつか授業で見た、プラネタリウムを思い出した。10年以上も前の話だから、細かい部分なんて全然覚えてないけど、暗い部屋の中で、ひたすらに星に見立てたホログラムが輝いていたことだけは覚えている。昔は、空気がもっと澄んで、空が綺麗だったから、本物の星も珍しくなかったらしいが、この時代にこの街で暮らしてきた私にとって、本物の星なんて想像の域を出ない。そう言えば、秀星くんの名前にも、「星」の文字が入っている。空に浮かぶ星と関係あるのかは知らないし、秀星くんの名前の由来をここで尋ねたところで、秀星くんがどう思うかも分からない。でも、ただ漠然とだけど、こんなに綺麗な名前は、望まれて生まれ、愛されて付けられた名前なのだろうと思った。


「何ボーっとしてんの?見てても味はわかんないよ?」
 アルコールの作用なのか、僅かに上気させた秀星くんの顔が、私に近づく。ちょっと色っぽくて、ドキッとした。
「い、いただきます!」
 慌てて白ワインを口に含む。アルコール独特のツンとした香りが舌いっぱいに広がる。でも、すぐに、フルーツの匂いがした。
「……、ん!おいしいね!えっと、グレープフルーツ?」
「おっ、正解!よく分かったね~!気に入ったなら、もっと飲む?」
「ううん、味が分かったから、もう充分。ありがとう。」
 嬉しそうな秀星くん。でも、秀星くんがこんなに喜んで飲んでいるものを、あまり取ってしまうのも悪い。
「あれ?あんまり口に合わなかった?」
 少し眉を下げて、小首を傾げる秀星くん。前に一度、秀星くんが小動物みたいに思えたことがあったけど、秀星くんは結構、母性本能をくすぐるタイプだと思う。私自身は、母性本能が強いタイプかは全く分からないけど。
「ん~、そうじゃなくて、こんなに美味しそうにお酒飲んでる秀星くんを見る方が、私は嬉しいかな……って、それだけ。」
「……。」
 秀星くんは、ややあってから口を開いた。
「―――――――ね、悠里ちゃんはさ、俺といて……、いや、その……、俺のこと、どう思ってんの?」
 秀星くんがワイングラスをテーブルに置くと、飲みかけのお酒が揺れて、キラキラと光った。秀星くんは私の目は見ずに、自分の手元のワイングラスを見ている。真剣で、それでいて翳(かげ)のある表情。別に泣き出しそうな表情でもないのに、私の頭には、今にも雨が降り出しそうな曇天が浮かんだ。

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