第12章 曇天
――――――私が秀星くんをどう思っているか?そんなの、とっくに答えが出てる。
「最初は、そりゃあ、いろいろ思ったけど。」
「うん。」
「今は、私、秀星くんといるの、楽しいし、嬉しい。」
「―――――ん。」
これじゃあ、まだ。この答えは、「秀星くんといてどう思うか」に対する回答にしかなっていない。
「私ね、秀星くんが笑っているところ、可愛いなぁ、とか、秀星くんには、笑っててほしいなぁ、とか、最近はそんなことばっかりで……」
「………。」
「私ね、恋なんて、多分したこと無いけど、秀星くんと一緒にいたい。秀星くんが……」
――――「後には、引けない」?
以前に自分が言ったことを思い出す。ううん、引かない。
「秀星くんが好き。……秀星くんには、私の気持ちなんて迷惑かもしれないけど―――――」
秀星くんは、私の言葉を聞き終えないうちに、向かいの椅子から立ち上がって、ソファに座る私の横に腰かけると、そのまま私を押し倒した。
「――――!」
びっくりし過ぎて、声も出なかった。視界には、さっきまではワイングラスとワインに映っていた照明と、秀星くん。秀星くんの瞳にも翳(かげ)が差す。
「―――――なんで?なんで悠里ちゃんは、俺にそんなこと言えんの?」
私を押し倒したまま紡がれた秀星くんの声は、微かに震えていた。
「俺さ、5歳――――たったの5歳でサイコパス検診に引っかかってさ―――――、治療更生の見込みゼロ、19で『執行官』になるまでずっと、更生施設にブチ込まれてて――――――」
ギリ、と奥歯を噛みしめるような音が聞こえた。でも、私が秀星くんの顔を見ようと思ったその時には、秀星くんは私の体から離れていて、背を向けていた。
「秀星く……」
「ごめん、悠里ちゃん。今日は、もう帰ってよ。」
私に背中を向けたまま、秀星くんは言葉をつなげる。
「え、あ……、ごめん、なさ……?」
「別に、悠里ちゃんは悪くないから、謝んなくていい。だから、今日は帰って。」
絞り出されたように出された声は、やはり震えていた。