第12章 曇天
「……冗談だって!いちいち可愛いなぁ、悠里ちゃんは!んじゃ、俺盛り付けてくるからさ、適当に遊んでるか、ソファに座ってるかしててよ。5分もすれば、食べられるようにするからさ!」
秀星くんは、そう言ってシステムキッチンへと行ってしまった。私は、特に筐体ゲームで遊ぶ気分にもなれなかったので、ソファに腰かけて、何となく室内を見まわしてみた。相変わらず、不思議な内装。床のタイルだけを見てもそう。この部屋の雰囲気は、私の知るどの場所とも似ていない。ホログラムで彩られた楽しさのあるテーマパークでもなく、ただ前時代的な娯楽遊具を集めた博物館とも違う。でも、私にとって、心地よい空間。どうしてだろうね。
「悠里ちゃ~ん、これテーブルにお願いしていい?」
秀星くんの声で、私は思考を中断して、秀星くんのところへ急ぐ。
「は~い!」
秀星くんの指示で、私はテーブルの上に食器を並べる。フォークとスプーンということは、今日は洋食なのかな?それに、これはワイングラス?そう言えば、秀星くんは、お酒を飲むって言ってたっけ?
「わ!美味しそう!」
「美味しそうじゃなくって、美味しいに決まってんじゃん!」
得意気な秀星くん。運ばれてきたのは、美味しそうなスープスパゲティに、フルーツサラダ、見たこともない色のソースがかかったウインナーに、バゲット。見た目も可愛い。
「それに、可愛い!」
気が付けば、思ったままを口に出していた。
「食べる前からそんなに喜んでくれるなんて、嬉しい限りだよ。さ、パスタが伸びる前に食べよ!」
「う、うん!いただきます!」
「どぉぞ。」
出された「料理」は、全部おいしかった。もう、「おいしい」以外の言葉が出てこなかった。TVで、新型のクッキングマシンから出された料理を食べて、もっともらしく長文のコメントをしている出演者がいるが、あれはやっぱり全部作り物だと思った。だってこうやって、本当においしいものを食べたら、もっと簡単な言葉しか出てこないもの。私は、もう夢中になって、秀星くんの「料理」を食べた。