第12章 曇天
「へー!今時、珍しいね。綿製のタオルなんてさ。」
「うん。もし、気に入ってくれたら、使ってほしいなー、なんて。」
「絶対使う!……俺、こんな風にプレゼント貰うのなんて、いつぶりだろ?」
言葉の途中から、秀星くんは背を向けて部屋の中へ進んで行ってしまったから、秀星くんがどんな表情をしていたのかは分からなかったけど、何だろう、軽い気持ちで「大袈裟だね」なんて言えない、見えない境界線みたいなものが、秀星くんと私にあるのを感じた。ねぇ秀星くん、できることなら、私はもっと秀星くんに近づいてみたい。
「気に入ってくれたなら、私も選んだ甲斐があるな~。……、ん?今日も何か、いい匂いがする!」
「分かる?」
秀星くんは、くるりと振り向きながら、嬉しそう。
「今日の「料理」は何?」
「ヒ・ミ・ツ~、って言いたいところだけど、もう腹減ったし、適当にメシにしてから、ゆっくり飲もっか。悠里ちゃんは大丈夫?お腹空いてる?」
「うん。お腹空いてるよ。」
家に遊びに来て早々に、それも自分の好きな人に対して空腹を訴える女子というのもどうかと思うけど、秀星くんの部屋に行くと思うと妙にテンションが上がって、お昼ごはんがあまり手につかなかったなんて、そんなこと言えない。だからといって、これから秀星くんの部屋にお邪魔して、一緒にご飯を食べるって分かってるのに、別のもので空腹を紛らわすなんて、何となくしたくなかった。こんなの、誰かに言ったら笑われそう。
「ナニ~?もしかしたら、俺のメシ楽しみにして、昼メシ抜いてきたの?」
からかうように笑う秀星くん。
「……、違うよ?別に、そんなんじゃ……、」
「あ!今、間があった!怪しい!んじゃ、俺の部屋に来るのが楽しみ過ぎて、昼メシ食べれなかった、とか?」
秀星くんは、楽しそうに軽口を続けている。
「……あ……えっと……。」
私がすぐに言葉を返せないでいると、秀星くんは、やや気まずそうにした。でも、そんなのはほんの少しのことで。