第12章 曇天
身だしなみよし、お礼のプレゼントよし、明日は仕事なし、っと!
もう慣れつつある手つきで、呼び鈴のボタンを押す。さほど間を空けずして、扉が開けられた。
「いらっしゃい、悠里ちゃん。さ、入って入って!」
明るく、笑顔で迎えてくれる秀星くん。その笑顔が見られるだけでも嬉しいけど、私に向けられているものだと思うと、もっと嬉しい。……こんなこと、本人には言えないけど。それでもいい。秀星くんが私をどう思っていようとも、こうやって笑顔で迎えてもらえてるだけで、私にとっては幸せなこと。だから私も、少しぐらいぎこちなくなってもいいや、笑顔で応えよう。
「ありがとう、秀星くん!あと、これ、いつもありがとう!」
「何、コレ?俺にくれんの?なんで?」
秀星くんは、きょとんとしている。私はもう、そういうちょっとした仕草だって、確実に可愛いと思ってしまう。
「いつも、私がご馳走になってばっかりだから、今日はお礼のプレゼントを用意してきたの。」
流石に、毎回ご馳走になっている状態なので、正直悪いなぁと思っていた。前回は山田さんからもらったチョコレートを横流ししただけだったけど、今回は買いに行く時間があったから、自分で選んでみた。
「そんなん、いいよ。料理は俺の趣味だし。悠里ちゃんは気にしないでいいよ。でも、悠里ちゃんの気持ちだし?有り難く受け取っとくよ。」
「うん。」
「で、中身は何?」
秀星くんは、言いながらもガサガサと包みを開け始めた。その瞳は、心なしか輝いていた。案外、口では大人びたことを言っているけど、内心は見た目以上に喜んでくれているのかもしれない。もしそうであるなら、それはとても嬉しい。
「おー!」
私が選んだのは、定番と言えば定番のタオル。高機能繊維のものや、ホロに対応した繊維もあったけれど、シンプルな、ともすれば今となっては前時代的な印象すら醸し出す綿製のタオル。お店でいくらかのタオルに触ったけれど、秀星くんに触れた感触を覚えている私の手は、なんとなくこのタオルを選んだ。色はオレンジただ一色で、特に模様は入っていない。でも、ふわふわとして肌触りが良くて、秀星くんも使ってくれそうな気がした、それだけ。