第2章 迷い蝶
――――――『潜在犯』に対する社会からの風当たりは、決して優しいものではない。シビュラにより犯罪係数が一定以上であると認定された彼らは、潜在犯――――つまりはシビュラにより、今後犯罪を犯す可能性が極めて高い人間であると認定された存在だ。安全な社会を営む上において、その脅威と判定された人間存在、それが『潜在犯』。だからこそ、私たちが通常なら関わりを持たない場所で、彼らは生活しているのだ。そんな彼らが職業人として社会生活を営む数少ない場所のひとつが、公安局刑事課だ。『潜在犯』である彼らは、執行官という社会的・職業的身分を与えられて(どんな内容かは私もよく知らないけど)職務を全うしているらしいが、世間的に見れば、彼らに対する見方は、『職業人』であるよりも『潜在犯』―――――つまりは、異端であり脅威であるという見方をされる。獣を狩る猟犬、いわば必要悪。この社会で『一般市民』としての判定を受け続け、証明され続けてきた私の頭にも、身体にも、自然に染みついているのだと思う。だから、『潜在犯』に対して、どういう接し方をして良いものか、咄嗟に判断がつかない私がいる。
恐らくはさっき、私が自覚している以上に、そういった私の考えが態度に出てしまったのだと思う。それが、目の前の彼を不愉快な気分にさせたのだろう。的外れな予想かもしれないし、余計に不愉快にさせるかもしれないけど……。
「あの、ごめんなさい。私、執行官の方と、こうしてお話をするの、初めてで……。どう接していいか分からなくて、その……」
相手の目を見て話す勇気まではない、小心者の私。ここまで言ってから、恐る恐る相手の表情を確認すべく、ゆっくりと顔を上げた。すると、予想外なことに、彼はポカンとして、私を眺めていた。理由は分からないけれど、まるで未知の存在にでも遭遇したような表情だった。
沈黙が気まずい。耐えられない。
「その、ですね、失礼な態度でしたよね、私。」
沈黙を破るべく、私は何とか言葉を絞り出す。