第2章 迷い蝶
「お届け物で、えっと、あの、その……」
私の隣にいる人間は『潜在犯』かもしれない、そう思うだけで、体が、表情筋が、強張ってしまう。自分の目が泳いでいるのを感じた。そんな私の様子を、彼は敏感に察知したのだと思う。彼の顔から、ほんの一瞬だけおちゃらけた表情が消えた。瞬間的に、私は「マズイ」と思った。しかし、それもほんの一瞬の間で、彼はまた陽気に言葉を紡いだ。
「へぇ~?お遣いねぇ?普通ならドローンにでも配達させるもんじゃないの?わざわざココのエリート職員様が、重いメして荷物運びなんて、珍しいこともあるもんだねぇ。」
口調は変わらず明るいが、その瞳には少しばかり、挑戦的な色が滲んでいる。その上に言葉に棘があるのは、きっと気のせいじゃない。そして今の言葉から分かってしまった。私の隣を歩いている彼は、執行官――――つまりは『潜在犯』。私のことをエリートと勘違いしている節はあるにせよ、さっきの私の反応が気に障ったのかもしれない。