第10章 天然
何分経ったのか、それとも時間はさほど過ぎていなかったのか、よくわからないけど、やがて秀星くんは私の首筋から顔を離して、聞こえるかどうかぐらいの声でポツリと、「ごめん」と呟いた。下を向いたままだったから、まだ表情は分からない。でも、何となく、秀星くんが哀しんでいるような気がして。私はソファに座ったまま秀星くんの方に向き直り、半ば衝動的に秀星くんに手を伸ばして、そのまま引き寄せた。
「ちょ、悠里ちゃ――――!?」
バランスを崩した秀星くんは、そのまま私に倒れかかってきた。私は秀星くんの頭をぎゅっと抱きしめた。秀星くんの頭は私の胸の辺りにあって、多分ダメなところが秀星くんに押し当てられてるけど、気にしない。
「何してんの?――――――ッ、でも―――――――」
秀星くんは、それっきり何も言わなかった。再び静寂に包まれるこの部屋。時々秀星くんが身じろぎをしていたけれど、それだけ。何度目かの身じろぎの後、秀星くんは私から体を離して、そっと顔を上げた。
「悠里ちゃんって、実は結構ダイタン?胸とか、触っとくべきだった……?」
表情も、いつもと同じ。おちゃらけた表情、冗談めかした口調に戻っていた。まるで、さっきまでの切ない雰囲気なんて、全部嘘だったみたいに。
「~~~!秀星くん!!」
私は、恥ずかしくなって、秀星くんの背中を取り敢えず叩いた。秀星くんは、特に反省する様子も、悪びれる様子もなく、ケラケラと笑っている。
「ホラ、これでも食べて、機嫌直しなよ?」
秀星くんは、チョコレートを1つ、私の口元まで持ってきた。ちょっと待って。
「それ、私が持ってきたチョコレートじゃない……。それに、私の機嫌が食べ物で直ると思ってるでしょ?」
「細かいことはいいから、食べてみなよ。」
秀星くんが、チョコレートで私の唇をツンツンとつついてくる。甘い香りに負けた私がそっと口を開くと、その隙間からチョコレートが滑り込んできた。
「どぉ?」
「んっ、甘い……。」
天然モノのチョコレートは、私が想像していたよりも、ずっと味が濃かった。
「バイオパーツで作ったのと比べて、どうよ?」
「絶対、こっちの方がおいしい。」