第10章 天然
「!」
そして、私の隣の腰かけたかと思うと、そのまま私に抱き付いてきた。正面を向いて座っている私に、秀星くんが横から抱き付いているような感じ。私の左肩に回された手、右耳には秀星くんの吐息を微かに感じた。様子を確認しようにも、秀星くんの方なんて向けるわけもない私。
「秀星くん?」
だから、そのままの姿勢で名前を呼んでみる。
「……なに?」
秀星くんの表情が分からないから、声だけで秀星くんの気持ちを類推するしかない。不快そうにはしてない、はず。
「ど、どしたの?」
「ん~?悠里ちゃんが可愛いな、って、それだけ。」
言いながら、秀星くんは私に軽く頬を寄せてきた。髪が当たって、くすぐったいよ。でも、嫌じゃない。
「ふ~ん……?」
「ね、悠里ちゃんは、俺のこと嫌い?」
切なさを孕んだ、掠れた声。どうして?どこか泣き出しそうにも聞こえる、秀星くんの声。その声に、私はどうやって応えたらいいの?
「嫌いじゃない!私、秀星くんのこと、嫌いじゃない!むしろ、その、」
「いい、ありがと。それだけで俺には充分、――――――充分だよ。」
「――――――ぇ?」
切なく掠れた声はそのままに、それでいて穏やかに。
ねぇ秀星くん、あなたは今、どんな顔をしていますか?
「ね、悠里ちゃん、しばらくこうしてて、いい?」
そう言って、秀星くんは私の首元に、顔を埋めてきた。相変わらず、秀星くんの吐息が首筋に当たって、私はその度に、痺れるような感じ。部屋は静寂に包まれている。でも、嫌じゃない。この静けさの中で、微かに聞こえる秀星くんの呼吸の音が、心地良い。私は、左手で、秀星くんの頭をぽん、ぽん、と撫でた。最初は、ビクリと反応したけど、それっきり。