第10章 天然
「ま、小難しい話はこれぐらいにして、ホラ!チョコとコーヒー!冷めちゃうよ?」
小難しい話を仕掛けてきたのは、秀星くんの方でしょ、なんて無粋な言葉は、コーヒーと一緒に飲み込むことにした。
「ん!すごいね、これ。味が濃い!」
秀星くんを見ると、秀星くんはコーヒーそっちのけで、チョコレートに手を伸ばしていた。心なしか、瞳が輝いていた。
「ん~!うまい!やっぱ天然モノは味が違うよな~!」
幸せそうにチョコレートを頬張る秀星くんは、およそ成人男性には見えなかった。でも、かわいいなぁなんて思ってしまう私。5、6個食べ進めたところで、秀星くんの手が止まった。
「ねぇ、悠里ちゃんは食べないの?もしかして、苦手?」
口にチョコレートを挟んだまま小首を傾げて、器用に言葉を紡ぐ秀星くん。何か、小動物みたいだけど、それを言ったら確実に機嫌を損ねそう。
「うん?そんなことは無いよ。ただ、天然モノのチョコレートなんて食べたこと無いのと、何より秀星くんが美味しそうに食べるの見てた方が、嬉しいし。」
「――――――、悠里ちゃん、天然?よくそんな恥ずかしいこと言えんね……。」
私から目を逸らしつつ、目を泳がせる秀星くん。ついでに、やっと挟んでいたチョコレートを咀嚼していた。
「そう?でもね、私、考えてたんだけど……」
「ん?」
秀星くんの視線がこっちに戻って来た。それだけで、どこか嬉しい私。
「私は、きっと秀星くんのこと全然分かってないし、今まで生きてきた中で見てきたものも、きっと全然違うんだろうなぁって。」
「――――ん。」
「だから、私ね、最初に秀星くんや狡噛さんと話をしたとき、何を言っていいか分からない以上に、自分可愛さに何も言えなかった。」
秀星くんは、静かにまっすぐな視線を向けてきてくれる。
「――――――相手が『執行官』だからとか、そんな風に心のどこかで言い訳して。」
「うん。」
「だから、今更って感じかもしれないけど、出来る限り、私が感じたことを口にしたいな、伝えたいな、って。もし、迷惑ならやめるけ―――――?」
秀星くんは、おもむろに立ち上がり、こっちに歩いてきた。