第10章 天然
「んで、これが悠里ちゃんが持ってきてくれたチョコレートね!」
少し大きめのお皿の上には、2センチ四方のシンプルなチョコレートが十数個並んでいた。
「何か、思ってたよりシンプルっていうか……。」
何の飾り気もない、ミルクチョコレートと、ビターチョコレートのようだった。天然モノの珍しいチョコレート、というからには、もっと繊細な装飾でも施してあるのかと思いきや、拍子抜けするほどに薄い直方体に、メーカーの名前らしき刻印がされている、それだけ。
「ん?あー、本来はこんなもんだよ、悠里ちゃん。」
秀星くんが静かに笑った。
「そうなの?」
「そうそう。っていうか、今俺らの身の回りには、虚飾が多すぎるような気がするけどね。」
「虚飾?」
どういうことだろう。
「んー、実際よりも、外見だけを繕ってるモノが多い気がする。」
「例えば?」
「例えば俺は、この街がそうだと思う。」
ほんの少し、秀星くんの表情が真剣なものになった。
「取り敢えず、『健康な市民』の目に触れるところだけ、ホロ使って臭いモンには蓋。でもさ、そうじゃないじゃん。現実には、この『健康な街』にだって、目を覆いたくなるようなモンが溢れててさ。」
……。そうか、秀星くんは、『執行官』だ。そういう、「目を覆いたくなるもの」と、向き合わざるを得ない立場にいるんだ。これは私の想像だけど、『執行官』や『監視官』は、上辺を飾る美麗なホログラムの奥にある、皆が目を背けたくなるような現実を、『犯罪」という形で直視していることだと思う。でも、この『健康な街』は、そこに暮らす人々は、「目を覆いたくなるもの」と対峙している『執行官』を、ただの『犯罪者』としてしか見做さない。
「……臭いものに蓋をするだけじゃなくて、その『臭いものと向き合う存在』まで、「臭いもの」として扱って、「蓋」してる?」
秀星くんは、少し驚いたような瞳をこちらに向けた後、両手を膝の上で組んで目を閉じた。でも、すぐにいつもの明るい雰囲気に切り替えて。