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シャングリラ  【サイコパスR18】

第2章 迷い蝶


「えっと、その、実は私、さっきから迷ってて、刑事課一係のオフィスを探してるんです。どこかご存知だったりしますか?」
 この際、コウちゃんとは誰かとか、妙に馴れ馴れしい目の前の人物の態度なんかはあまり気にしないことにしよう。この人も見た目は若いから、刑事課一係の場所なんて知らない可能性もあるけど、折角見つけたチャンスを無駄にしている時間はない。
「あれ?刑事課一係の場所なんて探してたの?いいよ。ついて来て。俺も今から戻るとこだったしさ。」
 軽い口調はそのままに、彼は歩き出した。
 『刑事課一係』に『戻る』ということは、彼はそこに所属しているということになる。それはつまり、よほどの事情を除けば、彼が監視官か執行官であることを意味する。しかし、公安局の監視官なんていうのは、私のような凡人では想像することしかできない、究極のエリートだ。シビュラの適正判定でも極めて少数の人間しか、その適正判定が出ることが無い。実際に、私のある程度親しい友人たちの中では、公安局どころか中央省庁に優秀な判定が出た人間など一人もいなかった。私は現在、何の悪戯か、公安局に出入りする機会を与えていただいている不思議な身の上で、毎日エリートたちと仕事をさせていただいているが、そんなのはかなり稀なこと。中央省庁の公安局というだけでも超が付くほどのエリートなのに、その中でも監視官と言えば、もうとんでもない。彼ら監視官の必須条件としては、心身ともに能力が極めて高いことは言うまでもない。ここに来てから、数えるほどしかないが監視官と会ったこともある。そもそも雰囲気からして別世界で、知性的で冷静沈着だ。しかし目の前の彼からは、申し訳ないがそんな雰囲気は全く感じない。着崩したスーツ、話し方や所作からみても、エリートの気配すら感じられない。ということは―――――執行官?―――――『潜在犯』?一瞬にして、私の心にあるガードが一気に上がってしまうのを感じた。今更ガードが上がったところで、何をどうすることもできないのだけれど。
「管財課からのお遣いがどうの~って言ってたけど、何?」
 彼は変わらぬ口調で、目線をこちらに寄越しながら話しかけてくる。
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