第9章 熱
私は、自分の唇についたメープルシロップを舐め取った。
「ほら、ざんね、んっ……!!?」
秀星くんの唇が私の唇に触れて、くちゅ、ぴちゃ、と、何とも朝に似つかわしくない音が響く。部屋の中に反響した音は、いちばん最後に私の耳に届いて、私はその音でふわふわした気分になっていく。
ちゅっ、ちゅっ。秀星くんに触れられる唇が、熱くなって、最初は変な感じだったのに、なんでだろう、気持ちいい?そのうちに、唇以外の、私の中の何かが、熱を帯び始めるのを感じた。
「―――――――っは、ん。ご馳走様。ま、最初はこんなモン、かな?悠里ちゃんも美味しかったよ。」
秀星くんは、唇を離して、首を傾げながら笑った。挑戦的で挑発的な目元なのに、どことなく赤みも帯びていて。それが、私の中の何かを、さらに煽るようだった。
「っはぁ、はぁ、はぁ……」
気付けば、私は軽く息が切れていた。鼻を塞がれていたわけでもないのに?あぁ、そっか。呼吸を忘れてたんだ。
―――――どうして?
――――――気持ちよかった、から……?
自分の中で得た解答に、ゾクリとした。こんなの、私が秀星くんを、そういう目で見てるみいたいじゃない。いや、違う。もう、私は既に、秀星くんのこと―――――?
「ふぅん……。悠里ちゃん、俺のそういうところに興味あるんだ?それって、どういう意味か、自覚ある?」
――――――――昨夜の、秀星くんの問いが、頭の中で再生される。
気付いてしまったのに、気付かないフリなんてできない。私、そんなに器用じゃない。