第9章 熱
「ちょっ……!」
まさか、私が本当にするとは思わなかったのだろう。秀星くんの声に、明らかな焦りと驚きが混じった。
くちゅり、ぴちゃり、微かに自分の口が水音を立てたのが、どうしようもなく恥ずかしかったが、自分でやったんだから、どうしようもない。第一関節まで付いていたメープルシロップを舌で綺麗に舐め取ったところで、ひとまず口から指を離した。そして、秀星くんの顔を見てやる。
秀星くんは、呆気にとられたといった具合で。でも、その顔には朱が差していた。
「秀星くん、赤くなってる……、かわいい、……メープルシロップ、ごちそうさま。甘くて美味しい、……。」
必死で余裕を繕って、笑顔を作る。私も、恥ずかしくて仕方がない。当然だけど、メープルシロップの味なんて、さっぱりわからなかった。私は、手首にかけた力を、少しずつ緩めた。もとより、そんなに強い力で掴んでいたわけじゃないから、秀星くんが抵抗すれば、一瞬でほどけるぐらいのものだったのだけど。
秀星くんは、まだ顔を僅かに赤くしている。どちらかというと幼い部類に入るであろう秀星くんの顔立ちだけど、その表情は、どこか色っぽかった。そんなことを考えていると、私の隙をついて、秀星くんの手が動いた。その瞬間、秀星くんの口角が吊り上がったのが見えてしまった。しかし、時既に遅し。
「んっ!?」
秀星くんの右手人差し指が、私の下唇を掠めた。とろみのあるメープルシロップが、私の下唇について、何だかベタベタして気持ち悪い。反射的に、自分の手でシロップを拭おうと手を動かしたところで、私の右手は秀星くんの左手によって、私の左手は秀星くんの右手によって、それぞれ掴まれてしまった。つまり、私の両腕は、秀星くんの両手によって自由に動かせない状態。
「ちょ、秀星くん……!?」
「んじゃ、俺も「味見」していいってコトだよね?」
秀星くんは、表情の色っぽさを深めて、軽く舌なめずり。遠慮がちに覗いたピンク色の舌が、その色っぽさをさらに強調させた。秀星くんはそのまま私の両手を引いて、顔同士をを近づけた。余裕の表情だけど、息遣いがほんの少し荒い。多分、見た目よりも、余裕はない、ハズ。いや、私は余裕がないどころか軽くパニック状態だけど。ど、どうしよう、どうしたらいいの?秀星くんの顔が、どんどん近づいてくる。……、そうだ!