第9章 熱
「んー、コレ単体でも甘くて美味しいけど、舐めてみる?」
「いいの?やった!」
秀星くんは、メープルシロップを掛け終えると、残ったシロップの数滴を自分の右手の人差し指と中指の先につけて、私の顔の前に差し出してきた。―――――――まさか、これを舐めろと?
「秀星、くん……?」
恐る恐る、秀星くんの顔を見上げると、何かを期待するように口角を上げていた。私、どうしたらいいのでしょうか。
「まさかコレ、……えっと……。なんで……?」
なんでスプーンとかじゃないの!テーブルの上にあるのに!
「強いて言うなら、宿泊料?」
そういう意味じゃない!しかも、「食事代」って言われようものなら、そのまま朝食をいただかないで帰るという選択肢が取れたのに!やっぱり、この人やっぱりだいぶ頭の回転が速いんじゃ……とか、今は考えてる場合じゃない!
「ナニ?お子ちゃま悠里ちゃまには、朝から刺激が強すぎ?昨日は後に引けないとか言っといて?ふぅ~ん?悠里ちゃんって、意外と口だけのタイプだったんだ~。あーあ、まぁ、色々な物事についてご経験の少ない『健康な市民』様だし?仕方ないか……」
この……っ!明らかに調子に乗ってくれてるじゃない……。別に、安い挑発に乗ることはしないし、普段の私なら、挑発に乗ること自体が嫌い。でも、取り敢えず、これ以上好き勝手に言わせておくのは嬉しくない。ならば。
私は、ソファから立ち上がって、秀星くんと私の間にあるテーブルを半周ぐるりとまわって、秀星くんのすぐ右側まで移動した。そして、自分の両手で、秀星くんの右手首をぐっと掴んだ。無論、手首のスナップも封じられる位置で掴んだ。今のところ秀星くんは、別段焦ることもなく私の行動を見ている。
私は意を決して、秀星くんの手首を自分の口元へと運び、シロップ付きの中指を第一関節まで口内に含んだ。