第9章 熱
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朝起きると、私の体には、自分で掛けた覚えのない毛布が掛かっていた。しかも、いい匂いがする。何だろう、甘い匂い。
「ん……、しゅうせい、くん?」
「あ、起きた?もうちょっとしたら、起こそうと思ってたから、ナイスタイミング。おはよ、悠里ちゃん。」
システムキッチンからソファで寝ている私に、声を掛けてくれた。
「おはよう、秀星くん。えっと、今、何時?」
「7時かな~」
出勤が8時30分だから、余裕。よく眠れたみたいで、すっきりと目が覚めた。
「毛布、掛けてくれたの?ありがとう。」
「いーよ。それより、もうちょっとで焼き上がるから、顔洗っておいで。洗濯物は乾かしておいたから、洗面所に畳んでおいてあるよ。」
「何から何までありがとう。」
私は、秀星くんに借りた服のまま、お言葉に甘えて洗面台へ行って顔を洗ったあとに、身なりを整えた。もう仕事だし、スーツに着替えておこう。
ソファに戻ると、さっきよりも甘い匂いが強くなっていた。
「美味しそうな匂い。今度は何の「料理」?」
こんなに美味しそうな匂い。尋ねずにはいられなかった。
「見てのお楽しみ!んじゃ、悠里ちゃん、座って座って!」
私が席に座ったのを見てから、秀星くんは食器と飲み物、サラダを置いてくれた。その後に秀星くんがテーブルに置いたのは、大きなお皿に置かれたホットケーキだった。熱で半分溶けたバターが上に乗っていて、さらにおいしそう。なるほど、さっきからの甘い匂いの正体は、これだったんだね。秀星くんは、その上から、さらに何かトロッとした液体をかけた。何だろう。シロップ、かな?液体はゆっくりと垂れ、僅かにホットケーキにしみこんでいるようだった。
「何、それ?」
「知らない?メープルシロップ。これ、甘いだけじゃなくて、掛けると味に深みが出んの。」
「知らない……。」