第8章 欲
「うん?まぁ、予定ではね。んじゃあさ……、悠里ちゃんが俺に食べさせてよ?」
は い ?
「……………え?」
「「え?」、じゃないでしょ。俺さ、頑張って『お仕事』したのにさ、昼飯から後、まだ何にも食べてないし。でもさ、もうこの時間だから、甘いモン食べれたらそれでいいかな~なんて。あ、因みにそれがラスト1コのプリンね。」
私がここで取るべき行動は一つ。
私は一旦テーブルの上に戻していたプリンを左手に素早く持ち、右手でスプーンを握り込んだ。この際、持ち方がどうとかマナーがどうとか関係ない。兎に角、このプリンを全速力で完食して、しかる後に聞こえなかったふりを―――――――
「全部食べたら、悠里ちゃんの口の中に残ったやつを味わうからね?」
――――――追撃は、寸分の狂いなくクリティカルヒット。月島悠里の作戦は、縢秀星の一言で、完全に破られたのだった。いや、全速力で完食して、とどめに水で流し込めばと思ったが、さっきまでテーブルの上にあったグラスは既になくなっていた。え?いつ片付けたの!?怖いよ!
「ま、まさ、まさ、か、秀星くんは、そんなことしない、です、よ、ね?」
声が上擦ってる。口調が変。この時点で、既に勝敗は見えたが、抗うことに意味を見出したい―――――――いや、やめとこう。私の言葉を聞いた秀星くんは、口角を上げて、邪悪に微笑んでいる。冗談抜きで怖いよ!!
秀星くんは立ち上がって、私に近づいてきた。私はさっきのことを思い出して、ひたすらドキドキしている。秀星くんは、ソファに座る私の隣にぽん、と腰を下ろして、私の方に体を向けて座り直した。
「このままいくと、時間切れだけど?」
秀星くんは、試すようにな視線を、遠慮なく向けてくる。
「そ、そんなの狡い!時間切れになるとか、秀星くん言ってなかったし!」
「こんな時間に悠里ちゃんが俺の部屋に来るってこと、俺は聞いてなかったけどな~」
ぐっ……、私の弱いところを、こうも的確に……!秀星くん、頭の回転速すぎるよ!口喧嘩なんてしても、勝てなさそう!いや、絶対勝てない!