第8章 欲
「ぷっ、あはははは!」
「へっ?」
秀星くんの笑い声で、私はぱちりと目を開けた。秀星くんは、もう私から手を放していて、代わりにおなかを抱えて笑っていた。私は一気に脱力して、ソファから落ちそうになったのを悟られないように、座りなおした。セーフ!……いや、そうじゃない、抗議しないと!
「ちょ、ひどい、秀星くん!」
「くく……、何が?」
まだ笑ってるし……。
「何が?じゃないし!」
「途中でチューやめたこと?」
「あ……う、……そうじゃ、なくて……」
完全にペースを握られてる。
「恥ずかしがっちゃって、かっわい~」
今度は、片手で頭を撫でられた。でも、もう反撃する元気も抗議する気力もなくした私は、もう成す術なく、顔を背けることしかできなかった。
「あ、怒った?」
そう尋ねる秀星くんに、悪びれた様子はない。私だけがドキドキして、何してるんだろ。っていうか、そもそも私はここに何しに来たんだろう。
「もういいよ……。」
私に残された道は、私だけが何故かドキドキしているという、このみっともない実態を、秀星くんに悟られないように努力するのみ。拗ねたような格好を見られることもどうかと思うけど、背に腹は代えられない。
顔を背けることにした手前、目でしっかりと確認することはできないけど、秀星くんが、私から離れていく気配がした。気になるけど、今は拗ねているポーズを取ることに集中しないと。……もう、私ってば本当に何してるんだろう……。
1分と経たないうちに、コトンと音がした。テーブルの上に何かが置かれたらしい。こうなったら意地。見てやるものか。