第8章 欲
「何だそれ。ま、悠里ちゃんがいいなら、いいけどさー。」
そう言って、秀星くんは眉を僅かに下げて、笑ってくれた。うん、そう。そうやって笑っていてくれる方が、いい。私は、好き。穏やかに笑う秀星くんをじっと見ていたら、その視線に気づいたらしい秀星くんが、こっちを見た。
「ん?な~に見てんの?何何?また俺に見惚れてたの?」
口元に手を当てて、くく、と笑いながら、上目遣いでこちらへと視線を寄越してきた。だから、あざといって!
「な、違う!」
「焦っちゃって~、悠里お姉さまってば、かっわい~」
ぐぬぬ……、私をからかって楽しそう。一矢報いる方法は無いものか……、……あ!
「髪下ろしてるし、秀星くんの方が、私なんかより数倍可愛いよ!」
それを聞いた秀星くんは、先程の穏やかな笑いとは打って変わって、むすっとした表情になった。どうだ、してやったり。
「あんまり年上を舐めると、思わぬ反撃が来るんだから!」
思い知るがいい!……なんて、私が密かに思い上がっていたのも束の間。秀星くんは椅子から立ち上がって、むすっとした表情のままでずんずんこっちに近づいてきた。あれ?どしたの?
秀星くんは、座っている私の正面に立って、その両手で私の両頬を固定した。
「ひゃ、―――――――!?」
そしてそのまま、自分の顔をぐっと私に近づけた。私はどうしていいか分からなくて、恐怖のままにぎゅっと目を瞑った。これって、もしかしたら、恋愛ドラマとかで時々ある、―――――――