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シャングリラ  【サイコパスR18】

第8章 欲


取り敢えず、ソファへ通された。私がソファに腰かけたのを見てから、秀星くんはキッチンの方へ向かった。髪が下ろされていて、いつもよりも幼い印象。シャワーを浴びた後なのかなぁなんて、ぼんやりと考えていると、「水でいい?」と声が聞こえた。「うん」とだけ返事をすると、グラスに入った水が目の前に置かれて、私は僅かに揺れるその水面を眺めた。
秀星くんは、テーブルを挟んで向かい側の椅子に腰かけた。椅子に腰かけた秀星くんの顔は、少し疲れていた。当然だ。少なくとも、昼過ぎから夜までずっと、『仕事』をしていたのだから。それでも、私を受け入れてくれたあたり、やっぱり秀星くんは心根の優しい人なんだと思う。
「疲れてるのに、ごめんなさい。」
 まずは、謝った。少し気持ちが落ち着いてきたところで時間を確認すると、夜の10時を軽く過ぎていた。他人様の自宅を訪問するには、どう考えたって非常識な時間帯。
「別にいいよ。明日のシフトは午後からだし。で、何?」
「で、何?」と尋ねられて、秀星くんと自然に目が合う。
「私、無知でどうしようもない奴で、ごめんね。あと――――――」
―――――不思議。トレーニングルームと、ここに来るまでに、いろんなことを考えていたはずなのに。
「あと?」
「ううん、何でもない。」
 私の口から出た言葉は、どうしようもないものだった。
「はぁ?」
 怪訝そうな顔をする秀星くん。髪を下ろしてるからかな、全然迫力ないよ。
「ううん。顔見たら、もういいやって、思えたから、もういいや。」
 秀星くんが暗い目をするのが悲しいとか、笑ってる方がいいとか、色々考えていたけど、こうやって秀星くんの顔を見たら、話すことなんてすっと消えて、すっきりした気分になった。
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