第64章 幸福論
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「ここで会うのは、何日ぶりだろ……。とにかく入って入って、悠里ちゃん!」
秀星くんは、仕事終わりの私を、元気に迎え入れてくれた。
「なーんか、最近、息つく暇もなくてさ……。ゴメンね、悠里ちゃん……。」
済まなさそうにふっと笑う秀星くんに、胸が締め付けられるような気がした。別に、秀星くんが悪いわけじゃないんだし、そんな顔をしないでほしい。
「ううん。秀星くんが悪いんじゃないんだし、仕方ないよ。」
本当は、寂しいけど。でも、その本音は、ひとまず封印しておく。
「やっぱり、毎日忙しいんだよね……?」
控えめに、尋ねてみる。
「う……、うん……。まぁ、ね……。実は、今も事件が進行中でさ……。まぁ、言っても仕方ないんだけどさ。」
つまり、それって、前みたいに、突然お呼びがかかってもおかしくないって事か。そう考えただけで、私の中の寂しさは、一気に膨れ上がった。あぁ、でも、それを言葉や表情に出してしまえば、秀星くんに気を遣わせてしまう。そんなんじゃ、ダメ。
「……、そっか。じゃあ、折角の時間、思いっきり楽しまないとね!」
私は今、キチンと笑えているだろうか。
「そう来なくっちゃね!……実はさ、時間なくてあんまりマトモなモン用意できてないんだけどさ。ケーキあんの!一緒にどう?まぁ、誕生日は明日なんだけどさ。前祝ってコトで!」
「うん!食べる!」
「イイ返事じゃん!じゃ、すぐに用意して来んね!」
秀星くんが、キッチンへと移動しようとしたその時。そうだ、忘れてた。
「ちょっと待って!」
バースデープレゼント、渡さないとね。
実は、前々から準備していた。ただ、いつ会えるか分からないから、職場のロッカーに入れてあったのを、持ってきていたのだ。