第64章 幸福論
なかなか会えない日々を過ごしているうちに、もう11月も終わりかけている。そう、もうすぐ秀星くんの誕生日だ。去年、緊張しながら秀星くんの誕生日を祝ったことなんて、もはや遥か遠い過去のように思えてくる。秀星くんの誕生日が近いというのに、秀星くんは、変わらず忙しいどころか、以前よりもさらに忙しくなってきたようだ。詳しいことは、普通の市民であるところの私にはよく分からないが、何かしら事件が続いているらしく、連日どこかへ捜査に行っているらしい。秀星くんがチラッと漏らしたところによれば、殺人があったらしい。管財課職員として、一係のオフィス付近を通ることはあっても、秀星くんの姿は一度もみなかった。何日も見ないなー、と思っていたら、どこかの工場で殺人事件が起こっていたらしい。それの捜査や、報告書作成などで、オーバーワーク状態だとか、そんなことを言っていた。
そんなこんな思っているうちに、誕生日の前日になってしまった。昨日、ダメ元で秀星くんの痰喝にメッセージを送ってみたのだが、返信は無かった。やはり、忙しいのだろうか。もうすぐ仕事も終わるなー、とか考えていたら、ふいに私の端末が、メッセージを受信した。
『返信遅くなってゴメン。
今晩、時間ある?』
短いメッセージ。それでも、私の頬を緩ませるには充分だった。