第63章 『監視官』
「まぁ、俺の仕事も“こんな”だし、悠里ちゃんとはなかなか時間が合わないかもしれないけどさ。」
「うん……。」
「でも、もし、悠里ちゃんが良いなら会ってくれたら嬉しいし……」
「うん……。」
そう言って、秀星くんはふと視線を下げて、黙ってしまった。
「?秀星、くん……?」
「ううん。やっぱり、いいや。とにかく、俺も隙を見て連絡するから、返信ヨロシク!」
「うん?うん。」
秀星くんは、何を言おうとして、やめたのだろう。一瞬、それを尋ねようと思ったが、秀星くんの雰囲気が、どこかでそれを拒否しているように思えて、結局私は何も言えなかった。
「あ、悠里ちゃん、明日も早いんでしょ?俺も、明日は早いんだよね~。今からサッと晩飯食ってさ、今日は解散にしよ!……まぁ、ホラ、このままだと、俺また悠里ちゃんに無理させちまうかもだし?」
茶化すように言う秀星くん。
「え、あ、うん……。確かに、お腹は……、空いてるかも……。」
「でしょ?んじゃ、ちょっとばかし待ってて!すぐ出来るからさ!」
秀星くんはそう言って、私の隣から立ち上がって、キッチンへと急いだ。
食事中は、秀星くんと色々な話をした。話題の中心は、やはりと言うべきか、常守監視官が来てからの、一係の様子についてだった。楽しそうに語る秀星くんを見て、本当に素敵な監視官さんが来たのだな、と心からそう思った。私にとっての職場―――――管財課オフィスは、ただ仕事をするための場所、という印象が強い。でも、きっと秀星くんの職場―――――刑事課一係は、少なくとも秀星くんにとって、単に仕事をするための場所じゃない。彼にとって、かけがえのない場所なんだ。言うなれば、家族のようなものだろうか?征陸さんが頼れるお父さんで、狡噛さんがカッコイイお兄さん、六合塚さんがお姉さんで、宜野座監視官が―――――、何だろう……。厳格なお兄さん?唐之杜先生はお母さん、って感じじゃないから、親戚のお姉さんって感じかな。それに、常守監視官が、明るくてしっかりした妹、って感じなのかな。あ、でも、精神年齢で見れば、明らかに秀星くんが弟ポジションな気がする……。本人には言わないけど。