第63章 『監視官』
「そう言えば秀星くん、常守監視官のことは、名前呼びなんだね。狡噛さんも六合塚さんも、苗字とか役職名で呼んでたのに。」
「え?」
秀星くんがきょとんとしている。
「あぁ、それね。朱ちゃんって呼んでいい?って訊いたら、あっさりOKしたから、いいかなーって。あれ?何?ナニ?悠里ちゃん……。」
秀星くんが、ニヤニヤし始めた。
「まさか、嫉妬してんの?秀星くんってば、誰にでもそんなに軽く名前呼びして~とか?」
カラカラと、笑いを転がしながら、秀星くんの唇は軽やかに冗談を紡ぎ出した。ついでに、秀星くんは明らかに楽しんでいる。
「な、何……!」
図星どんぴしゃり、とまではいかないが、自分でも意識していたところだったので、妙な反応をしてしまう。
「ホラホラ~、素直になりなって~!」
秀星くんは、肘で私を小突いてくる。全く痛くはないけれど、何かこう……。敗北感……。
「そうならそうと、早く言ってよ~!悠里ちゃんにしかしないこととか、いっぱいしてあげんのに~。」
笑いながら、秀星くんは私の頭をわしゃわしゃと、ほんの少し乱暴に撫でた。
「ちょ、秀星くん……!?」
嫌じゃない。むしろ、その掌(てのひら)が、心地良い。
「……。……。」
変なタイミングで流れる沈黙。そのすぐあとに、秀星くんが口を開いた。
「最近、あんまり一緒にいられなくてさ。俺も、ちょっと寂しかったりしたんだけど……、悠里ちゃんは?」
「ぇ……。」
秀星くんからの、思ってもみない言葉だった。
「もしかして……、俺だけ?そんなこと思ってんのは。」
秀星くんの瞳が、私を正面から捉えた。相変わらず、綺麗な眼だと思った。
「……、ううん。私も、寂しかった。」
さっきまでは、あんなに言えなかったのに、秀星くんの声って不思議。私の中に、すぅっととけるようにして入ってくる。