第63章 『監視官』
***
今日は定時で上がれそうだという秀星くんのお誘いに甘え、私は今、秀星くんのお部屋にいる。秀星くんのお部屋は、なんだか久し振りだ。ここのところは、時間が合わなかったり、やっと合ったと思ったら緊急出動があったりで、思うように会えなかった。無論、仕事で会うことはあるが、それとこれとは別。仕事だと、秀星くんに触れることなんてできないし、甘えるなんてとんでもない。だから、今日は少しの時間だけど、せっかく秀星くんのお部屋に入れたんだし、めいっぱい甘えて……なんて、素直になれればいいのに。可愛くない残念な私。
「……。」
気が付けば、私は言葉少なになっていた。
「どったの?仕事で何かあった?」
「別に……。」
心配して、私に声を掛けてくれる優しい秀星くん。なのに、私ときたら……。
「まぁ、悠里ちゃんに何もないならいいけどさ……。」
「ん……。」
秀星くんは、私の隣に腰掛けて、電子書籍用のデバイスを適当にフリックしている。何だろう……。漫画か何か、かな……。
「……。」
秀星くんも、喋らなくなった。そりゃあそうだ。この部屋には、秀星くんと私の2人だけ。片方が黙りこくってしまえば、もう片方だって、必然的に黙らざるを得ない。
しばらく、沈黙が続く。
別に、秀星くんに対して不満があるとかいうことじゃない。私はただ、秀星くんに会えなくて、寂しかっただけ。秀星くんは、そうじゃないのだろうか。私がいなくて寂しいとか、そんなことは……思ってくれない、のかな。それとも、忙しい日々の中で、そんなことも感じなかったかもしれない。それはそれで、仕方のないことなのかもしれないけど……。
「悠里ちゃん、言いたいことがあるなら、言ってみ?」
先に沈黙を破ったのは、秀星くんだった。
「……。」
言ってしまえば、ラクかもしれない。でも、秀星くんが何とも思っていないかもしれないのに、私だけが寂しいとか言うのって、虚しいっていうか……。
「まァ、悠里ちゃんが喋らないなら、俺が勝手に喋ってよっと。」
言いながら、秀星くんは持っていたデバイスをテーブルの上に置いた。私は、特に言葉を発さないまま、秀星くんの顔を見た。