第63章 『監視官』
「あぁ、別に、わざわざ監視官さんにご同行いただかなくても大丈夫ですよ。宜野座監視官も、私について来られたことなんて、ほとんどありませんし。」
「え、そうなんですか?」
「ギノさんも、悠里ちゃんのことは、結構放置プレイだしね~。あ!でも!!」
秀星くんの、その言い方はどうかと思うけど……。っていうか、秀星くん、分かってて言ってるのか、それとも単なる天然なのか……。
「でも?」
常守監視官は秀星くんを、澄んだ目で見つめている。小首をかしげている姿は、失礼ながら小動物のようですらある。
「トレーニングルームで、悠里ちゃんとコウちゃんが2人きりになるのを阻止したいなら、行っておいた方がいいかもよ~?」
「な!?ちょ、縢くん……!!?」
秀星くんは、明らかに楽しんでいる。常守監視官は、ほんの少し顔を赤らめて、あたふたしている。
「おっ!朱ちゃんってばイイ反応じゃん!こりゃ、満更でもないってカオだな!」
秀星くんは、顔いっぱいにいたずらな笑みを広げている。常守監視官は、さすがに困惑してきている。これは、私も少し秀星くんを止めた方が良いだろうか……。
――――――スパーン!!!!!
「痛って――――――!ちょ、何すんのよ!クニっち!!」
突如、なかなかいい音が鳴った。秀星くんは腰を曲げて、頭を抱えて痛がっている。六合塚さんが、秀星くんの背後に音もなく近寄って、持っていた雑誌型デバイスで、彼の頭を叩いたのだ。
「コイツには、優先的に教育的指導を入れた方がいいわよ。常守監視官。」
そう言いながら、六合塚さんは、自分のデスクへと戻った。
「ぷ、あははは……!」
「あはは……!」
常守監視官と私は、ついつい笑ってしまった。
「ちょ!悠里ちゃんも朱ちゃんも……!まぁ、いいけど。」
なんだか、空気はすっかりなごんでいる。ここが、公安局の刑事課オフィスだということも、忘れてしまいそうなほどに。
そんなこんなで、新しく刑事課一係に所属となった常守監視官ともすぐに打ち解けた。これから、仕事で付き合っていくことになるのだし、少しでも仲良くできればいいと思う。正直、宜野座監視官よりも、よほど付き合いやすいと感じてしまった……ということは、私の胸に秘めておこうと思う……。