第63章 『監視官』
「ちょ、常守監視官さん……?私、管財課ですけど、エリートでも何でもないので、そんなに丁寧な挨拶は無しで大丈夫ですよ……!?」
「え?でも……。」
常守監視官は、私の言葉に、下げていた頭を上げて、若干きょとんとしている。
「それに、あんまり年齢も変わらないと思いますし……。」
「あははは!マジメだねぇ、朱ちゃんは!」
秀星くんが、オフィスの奥から歩いてきた。久し振りに会ったけれど、元気そうで、嬉しい。……っていうか……今、「朱ちゃん」って……。複雑な感情が、私の中に芽生えたことは、ここでは黙っておく。
「か、縢くん……?」
「だから言ったじゃん。あのガミガミメガネの言うコトは、話半分でイイんだって!」
「で、でも……。」
常守監視官は、困惑した様子で、秀星くんと私を交互に見ている。
「そりゃあさぁ、さっきはギノさん……」
ここでなぜか、秀星くんはどこからか眼鏡を取り出し装着。眼鏡のフレームを指で神経質そうにクイッと上げながら話し始めた。
「『分かっているとは思うが、午後からは管財課職員がオフィスに来る。くれぐれも失礼の無いように対応しろ。それも、監視官としての重要な職務だ。』とか言ってたけどさ~。」
あぁ、コレは多分、宜野座監視官のモノマネだなぁ……。本人には口が裂けても言えないけど、なんか、似てるし、面白い。私は、一応笑いを堪(こら)えながら、黙って聞くことにした。因みに、常守監視官は、相変わらず秀星くんと私を交互に見つめては、困惑の色を深めている。
「ちょ、縢くん。月島さんに失礼じゃあ……?」
きっとこの常守監視官は、真面目で優しい性格なのだろう。秀星くんをたしなめる対応にも、それが滲み出ている。
「悠里ちゃんなら、大丈夫だって。それより、俺のギノさんのモノマネ、どぉだった?」
「悠里、ちゃん……?」
常守監視官は、状況が飲み込めなくて、キョトンとしている。当然だと思う。