第63章 『監視官』
最近、秀星くんは随分と忙しそうだ。というか、刑事課全体が何だか忙しそうだ。
管財課から、機材搬入や備品搬入でアポを取っても、突然出動要請がかかったとかで搬入がキャンセルになったり、監視官がいないから受け付けできなくなったりが、続いている。今までは、そんなことはあまり無かったのに。
秀星くんとも、予定が合わない日が続いている。やっと予定が合って、会える!と思ったら、その数時間前に出動があって、結局会えなかったりしたこともあった。秀星くんになかなか会えない寂しさと、秀星くんの身体に何かあったらどうしよう、という心配で、私はどうにも不安定。でも、この間、新田さんが一係へモニターの搬入をしようとしたときに急な出動があって、それができなかったから、今日の午後から、私が行くことになった。勤務中に不謹慎だとは思うけれど、久し振りに秀星くんに会えるかもしれないと思うと、期待に胸が膨らむ。
特にキャンセルが入らなかったので、予定通りに一係へ行く私。心なしか、私の足取りは軽やかなものだった。
いつも通り、一係の扉を―――――ん?
「あ、えっと―――――、月島さん、ですよね?」
見慣れない―――――というか、初めて見る顔。瞳はくりっとして大きく、女性というよりは少女、という印象。ショートカットの髪は栗色で、切り揃えられていて清潔な印象。声も、高く澄んでいて、少女らしい印象を残すのに、鮮明な存在感。一見すれば頼りない印象すら与えかねないのに、きっとこの少女は違う。何か、意志の強さのようなものを感じる。私は、目の前の少女を見た瞬間に、なぜかそう思えた。
「は、はじめまして。私は、最近一係に所属になった、監視官の常守朱です。監視官としてはまだまだ未熟で、業務内容もまだちゃんとは分かってなくて、ご迷惑をおかけすることもあると思いますが、今後よろしくお願いします。」
そう言って、目の前の彼女―――――常守朱監視官は、ぺこりと頭を下げた。『監視官』と言えば、この国では知らない人などいないほどの、「超」が付くほどのエリートだ。そんな人間が、エリートでも何でもない私に、頭を下げている―――――?これは、非常に申し訳ない光景だ。