第62章 暗転 後編
『―――――!――――――!――――――!!』
突如、秀星くんの腕についているデバイスから、大音量で鳴り響いた電子音。警告音にも似たそれは、その音を耳にする者に、非常事態を連想させるものだ。
「ひゃあっ!?」
沸騰した私の頭でも、一気に理性的にならざるを得ない。
警告音の直後、腕時計から、宜野座さんの顔が空中にホログラム展開された。
『―――――此方シェパード・ワン。刑事課一係全員に告げる。出動命令が下った。詳細は後程。執行官は、至急……』
「あー……。お仕事……?」
「あぁ、まぁ……、ね。」
流石の秀星くんも、居心地が悪そうに返事をしている。
「っていうか、宜野座監視官に、バレたの……かな……?」
私がこうやって秀星くんのお部屋にいることが。
「いや。それは無い。今のは、監視官から執行官デバイスへの一方的な通信だから。だから、こっちの部屋の様子とか、音声とかは、一切向こうには分からないよ。」
「そ、そうなんだ……。行かないと、だね。」
「うん。」
当然だ。『執行官』は、この『社会参加』を行うことを条件に、『施設』を退所する。秀星くんは、早くもベッドから下りて、仕事用の服に袖を通している。薄暗がりの中で、執行官デバイスが冷たく光っている。
「……、いつもつけてるね。その、腕のデバイス。」
「あー……、まぁね。執行官、だし?」
言いながら、秀星くんは足早に寝室を出て、部屋の出口へと急いでいる。
「……外さないんだね。」
「―――――“外せない”だけ。」
「……え?」
「あ、まぁ、俺は今から出ていくけど、適当に寝て、冷蔵庫の中のモンも、適当に食べていいよ。あと、俺の帰りがあまりにも遅かったら、そのまま出て行っていいから。どうせ、この部屋、鍵無いし。」
早口でそう言うと、秀星くんは扉を開けて、廊下を駆けていった。