第61章 暗転 前編
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家に帰って端末を確認すると、メールが届いていた。しかも、添付ファイル有り……。山田さんかな?
「え?唐之杜先生……?」
何と、メールの差出人は唐之杜先生だった。添付ファイルを展開すると、それは今日、先生に見せてもらっていた雑誌の一部データだった。ご丁寧に、私が見なかったカタログページだけじゃなく、申し込みフォーマットまで一緒にファイル化されてるし……。
「……。」
「………………。」
しばらくの間、私は雑誌データと睨めっこをしている。これは、どうしたらいいんだろう……。いや、買う気が無いのなら、先生には社交辞令的にお礼を言って、メールについては無視すればいい。分かってる。分かってるけど……!
「秀星くんは、この中なら、どれが好みかなぁ……。」
って、私は独りで何を言ってるのか。
「馬鹿らし……。」
私は、先生や六合塚さんみたいに容姿端麗でも、才色兼備でもない。だから、仮にカワイイ下着を身に着けたところで、似合わないばかりか、最悪ギャグにしかならないかも……。それに、どれもこれも、スタイルが良くないと、絶対に似合わない!もし、万が一、こんなのを注文して身に着けたところで、似合わなさ過ぎて、秀星くんに笑われでもしたら……。いや、秀星くんは優しいから、笑わないでいてくれるとは思う。でも、内心で笑いを堪えられたり、痛い目で見られたりしたら……。考えるだけで、いたたまれない気分になってくる。やめよう。妙なものを買ってお金を失って、それで尚且つ痛い人になるなんて、二重に損だ……。
「あー……、でも、この透けるワンピースみたいな下着、カワイイなぁ……。」
乳首なんて隠す気微塵もないこのブラジャーとか、ほぼ紐なパンツとかは、もう私の中でも謎過ぎるけど、このワンピースみたいなやつなら、多少言い訳が立ちそうだし……。秀星くんだって、もしかしたら気付かないでいてくれるかもしれないし……。今なら、期間限定で30%割引って書いてあるし……。
「……。少しだけ、なら……、いい、よね……?」
結局私は、うっすらと透ける素材でできた、キャミワンピ型の下着を1枚だけ、購入することにしたのだった。