第60章 楽園
「……昨日は、ごめん。」
しばらくしてから、突然秀星くんが再び口を開いた。
「いいよ、もう。」
きっと、秀星くんには秀星くんの感情や想いがあって、その中で秀星くんは苦しんでいるんだろうと思う。
「なんで、訊かないの?」
秀星くんは、私と目を合わせないままに、尋ねてきた。
「本当は、秀星くんが何を考えてるのかとか、本当のことを知りたいって思うけど、それは、私が追及して喋らせることじゃない気もするし……。だから、うん。いいかな、って。」
「……。」
秀星くんの表情は、私からは見えない。
「……、……………………………そっか。」
長い沈黙の後、秀星くんは、小さく呟いた。その声から、秀星くんの感情を読み取ることはできなかった、
「あー……、でも、いっこだけ。」
私の声に、秀星くんは顔を上げた。その瞳は、真っ直ぐだった。
「できれば、次はもっと優しくしてくれた方が、私は嬉しいなー、なんて……」
「する。……あ、いや、その、そういう意味じゃなくって……あ、いや、そういう意味だけどさ……。じゃなくって、ソフトに、っていう意味で……!」
秀星くんは、途中からわたわたとしながら、言葉を紡いだ。
「ぷ、ふふ……!分かってるよ、秀星くん……。」
その姿に、私は安堵を覚えて、途中から笑ってしまった。
「わ、笑わなくてもいいじゃん……。」
そう言って、秀星くんは、困ったように、そしてはにかむようにして笑った。