第60章 楽園
適当にニュース番組を見ていると、秀星くんの声。
「……、できたよ。」
テーブルには、卵がゆと、青菜のおひたしと、お茶。
秀星くんの『料理』を見ても、全く空腹は感じなかったけど、せっかく秀星くんが作ってくれたものだし、ありがたく食べさせてもらおう。
「わ、ありがとう。秀星くん。」
秀星くんは、特に何も言わずに、おかゆを小さなお椀に取り分けていた。
「いただきます。」
「いただきます。」
カチャ、カチャ、と食器とスプーンが音を立てる。秀星くんも私も、特に何も言葉を発さなかった。秀星くんは、それなりにテンポよく食べ進めてるけど、私はスローテンポだった。何口か卵がゆを口に運んだところで、秀星くんが淹れてくれた緑茶を飲んだ。温かい緑茶の味が、口の中にふんわりと広がって、思わずため息が出た。
「ねぇ……」
秀星くんが、卵がゆの入ったお椀とスプーンを置きながら、話し掛けてきた。
「ん?」
秀星くんの視線は、私じゃなくて、私の下にあるテーブルを向いていた。
「何も訊かないの?……、その、……昨日のこととか……。」
秀星くんの言葉は、いつになく歯切れが悪かった。
「……、ん……。」
本当は、聴きたいことはいっぱいある。秀星くんは、どうして、何を思って、あんなことをしたのか―――――って。でも、それを、その疑問を口にすることは、私としては何となく気が進まないのだ。私としても気になるし、本来なら問いただすべきなんだろう。でも、理由は分からないけど、口にしようとは思えない私がいる。私はそのことを、どう言葉にしていいか分からない。
「う、ん……。無い、わけじゃないけど、今は、いいかな、って……。」
「……そっか……。」
秀星くんは、ふい、と横に視線を逸らした。私は、特に気にしていない、といった素振りで、お茶を飲み続けた。