第60章 楽園
相変わらずぎこちない感じで、秀星くんは喋っている。そして、適当にニュース番組をつけた後すぐにキッチンへと消えていった。私は、ぱたぱたと動き回る秀星くんに、何と声を掛けていいのか、分からなかった。私は、特に何も言わず秀星くんのいるキッチンを何となく見ながら、ゆっくりと腰掛けた。
『……――――以上、今朝の天気予報は、八王子市からお伝えしました。―――――続いては、厚生省推薦ニュースのお時間です。』
厚生省、という単語を聞いて、何となくテレビへと視線を移した。仮にも、厚生省で勤務している身なのだ。少しはこういうニュースも見て勉強しておいた方が良いかもしれない。ホロ展開されている画面には、美人のニュースキャスターと、見慣れない物体が映し出されていた。あれは―――――人間の眼球?
『厚生省所管、再生医療研究所所属の研究員が、再生医療の分野で、また新たな成果を上げました。今度は、眼の分野―――――義眼です。新しいバイオテクノロジーは……』
どうやら、再生医療がまた発展したというニュースらしい。何でも、今までの義眼は、眼球そのものを全て摘出し、完全なる人工物を視神経と繋ぎ合わせるというものだったが、新しいテクノロジーが導入されたことで、本人の細胞を培養させたものを義眼パーツに組み込めるようになるらしい。何だか、何がすごいのかすら、私にはよく分からない話だけど、とにかくすごいらしい。映像で紹介されている義眼は、私の眼では、ホンモノと偽物の区別が全くつかない。専門家が、難しい単語を並べて、何やら解説しているけれど、やっぱりイマイチよく分からなかった。ただ、お金さえあれば、大抵の身体パーツは人工物に代替できるし、不自由のない生活が送れるのだということだけが、ぼんやりと分かった。