第60章 楽園
翌日―――――なのかどうかすら、よく分からないけど、とにかく目が覚めた。私が眠っていたのは秀星くんのベッドだったはずなのに、秀星くんはいなかった。私が深く寝入り過ぎていて、一緒にベッドで過ごしたことすら気が付かなかったのか、秀星くんはこの部屋以外で眠ったのか、それとも実はそんなに時間が経っていないのか……。自分の端末も他の持ち物も、ほとんど全部が、リビングに置きっぱなしになっている鞄の中だ。初めて、窓の無い秀星くんの部屋を不便だと感じた。上半身をゆっくりと起こしてみる。腰と下腹の辺りに、まだ重い痛みを感じるが、独りで立てないほど痛いわけではない。両足をベッドから下ろして、静かに立ち上がった。わりと大丈夫。普通に歩けそうだ。
リビングに足を運ぶ。少し緊張している自分が変な感じ。秀星くんは、キッチンにいた。雰囲気とか表情とかは、よく分からない。それよりも、秀星くんはあの後、ちゃんと眠ったのだろうか。
「お、おはよう……。秀星くん……。」
キッチンで作業中だった秀星くんの動きが一瞬止まって、私の姿を見てもう一瞬だけ、さらに動きが止まった。
「おはよ……。」
ぎこちない感じで、挨拶を返してくれた秀星くんは、今何を思っていたのだろうか。それとも今は、「朝」の時間帯ではないのだろうか。
「何、食べたい……?卵あるから、目玉焼きとか、卵焼きとか、そんなんなら、すぐにできるけど……。スープは、すぐにできるのだと、コンソメスープ、とか……。」
正直、あまり空腹は感じられなかった。それよりも、少し動いたせいか、痛みが少し強くなってきた。でも、あまり表情や動作には出さないようにしたい。秀星くんが、何を思って、あんなことをしたのかは、結局分からなかったけど、何となく、今は訊かない方が良いような気がした。本当は、問いただしたいところだけど、何故かそれは、今すべきことではないような気がして。
「うん……。あんまり、油っこくないものがいいなー、とか……。あと、座ってていい……?」
「あ……、うん……!悠里ちゃんはそこで座ってて。あ……、あっさりしたモンが良いよね、食べやすいし……!あ、あと、テレビとか見る?ちょっと時間かかるし、暇だよね……!」