第6章 翳(かげ)
7時になっても、8時になっても、宜野座監視官からの連絡はなかった。よほど大きな事件でもあったんだろうか。いつ宜野座監視官からの連絡が来るか分からなかったので、私は自分のデスクに入っていたクッキーを食べて、空腹をしのぎながら待っていた。でも結局、夜9時を過ぎた頃に、ようやく宜野座監視官から連絡があり、そこから運搬用ドローンと一緒に刑事課へ向かうことになった。
流石にもう迷わない、刑事課一係への道のり。刑事課一係のオフィスには、遠目に見ても、人が何人かいる様子が見えた。どうしよう、少し緊張する。でも、仕事だからそうも言っていられない。自動扉から少し離れたところで一旦立ち止まって、深呼吸。背筋も軽く伸ばしてから、扉の前に立つ。
「夜分遅くに恐れ入ります。お久しぶりです、管財課の月島――――――」
「あ、悠里ちゃん!久し振り~!」
私の姿を見つけたらしい縢さんは、ジャケットを脱いでネクタイを外してから、こちらに向かって笑顔で手を振ってきた。ちょっ!今仕事中!
オフィスには、狡噛さんと、六合塚さんと、背の高い年配の人もいた。まぁ、もしかして、あの人が征陸さんなのかな?狡噛さんは、秀星くんの様子を見て、1週間前と変わらない、落ち着いた大人の笑みを浮かべた。六合塚さんはやや呆れたような表情。征陸さん?は、落ち着いた表情のまま。
「月島君、遅くなって済まなかった。すぐにトレーニングルームへ頼む。それと、執行官はもう上がっていい。」
宜野座監視官は、特に気にすることもなく、必要最低限の内容を話すと、トレーニングルームへと足早に移動した。
ドローンに命令して、トレーニングルームに代替機を運ばせて、諸々の書類の必要なところだけをその場で監視官に記入してもらい、それで仕事は終了。時間にして5分もかからなかった。これだけのために3時間も待っていたのかと思うと微妙な気分だけど、そこは仕事。私に文句を言う権利はない。宜野座監視官も出動後で疲れていて、こんな雑務は早く終わらせたかったのかもしれない。自分の仕事が終わると、すぐさまトレーニングルームから出ていった。