第6章 翳(かげ)
只今の時刻は6時。定時を1時間超過している。宜野座監視官からの連絡はまだ来ない。もうオフィスには人がほとんど残っていないが、山田さんと私は二人、オフィスで他の仕事をしながら待ち続けている。6時を過ぎたころ、山田さんがソワソワし始めた。
「う~ん、宜野座監視官は遅いね~……」
「はい、確かに遅いですね。明日ではダメなのですか?」
「いや、それが、明日は宜野座監視官、お休みだそうなんだよ。監視官は激務だから、ほとんど休暇らしい休暇も取れないみたいだし、わざわざ出てきてもらうのも、悪いし……。」
山田さんは困り顔。公安局の監視官と言えば、公安局内でもトップクラスのエリートだ。ここに来て、日が浅い私にも、その力関係ぐらいは肌で感じていた。
「なら、仕方ないですね。気長に待ちましょう。」
私は、パソコンの前で仕事をしながら、待ち続けるだけの腹をくくり始めた。全自動化された食堂もあるし、空調設備も整ったこの公安局。一晩ぐらい何とでもなる。
「実は僕、この後予定が入っていてね……。他の課の先輩職員と、食事なんだよ……。」
なるほど、それでソワソワしていたのか。先輩ともなれば、それは断りにくいだろう、この縦社会で。
「私は構いませんよ。この間も一人でしたし、私一人でもできる仕事です。だから、山田さんそのお食事会へ行ってください。もし、何か問題があれば、その時は連絡することになってしまいますけど……。」
「悪いけど、お任せしてもいいかな……!」
この公安局内にも様々なパワーバランスが存在していることは明確。その分のしがらみも多いのだろう。エリート同士のパワーバランスやしがらみなんて、私が具体的に想像することはできなけれど、大変なんだろうなぁとは思う。山田さんは、「必ず埋め合わせをするよ」と言いながらオフィスを出ていった。オフィスに残されたのは、私だけになった。