第58章 罪 前編
俺は、悠里ちゃんを、強く抱きしめた。それとも、救いを求めるように、彼女に縋(すが)っているのだろうか。悠里ちゃんは、こんな俺を、どんな風に見ているのだろうか。『健康な市民』と違って、悠里ちゃんに、ほんの少しの「未来」だって与えてあげられないこの俺を、どう見ているのだろうか。
「秀星くん、好き……。」
悠里ちゃんは、小さく呟くようにして、そう口にした。
「……、ぁ……。」
それは、俺にとって、これ以上ないことだ。でも、それは、その想いは、アンタ自身の首を絞めることになるんだ。悠里ちゃんは、理解しているんだろうか?俺とアンタとの間には、絶対的な、越えることのできない境界線があるんだって事を。
「……、っ……。」
でも、こんなこと、悠里ちゃんには訊けない。俺はここまで分かっていながら、アンタに何も訊けずにいる。当たり前だ。それを説明して、悠里ちゃんが俺から離れていくのが怖いんだ。折角手に入れた温もりを、手放すのが惜しくて、堪らないからだ。悠里ちゃんが俺に笑いかけてくれなくなるのが、怖いんだ。それに、情けないんだ。俺だって男なのに、好きな女に何もできない。何もしてやれない。そんな俺が、悠里ちゃんを抱く?それも自分から?――――――冗談じゃない。俺にそんな資格なんて、どこにもない。それなのに、悠里ちゃんは、今までに数度、こんな俺を欲しいと言ってくれた。俺じゃなきゃ嫌だ、とまで言ってくれた。……まるで、夢のようだとさえ思う。「人生なんて死ぬまでの暇つぶし」だとばかり思ってきたのに、それなのに―――――――。
「ねぇ、悠里、ちゃん……」
思ったよりも掠れて出た、俺の声。自分でも少し驚いた。
「……、ん……。なに……?秀星くん……?」
悠里ちゃんの声は、消えそうだった。
悠里ちゃんを、犯したくて堪らない。もう、めちゃくちゃにしたい。でもそれは、彼女の人生を侵すことにもなりかねない。俺、何なんだよ?何でこんな、呪われてんだよ?
―――――――――あぁ、きっとこれは、「罰」なんだ。