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シャングリラ  【サイコパスR18】

第58章 罪 前編


 本来なら、『健康な市民』である悠里ちゃんが、俺みたいな『潜在犯』と関わるなんて、百害あって一利無し以外の何物でもない。俺みたいな『潜在犯』を相手にして恋愛ごっこなんてしたところで、そこに「未来」なんて無い。俺がいくら悠里ちゃんに「未来」をあげたいとか祈ったところで、それは叶わない。そもそも、俺は何に向かって祈ればいいのか。この社会の『神』たるシビュラは、俺を5歳で見捨てた。祈る対象は既に俺を見放しているのだ。その昔に崇められていたという神は、いるかいないかも分からない存在だったらしい。だから、人間を見放しているのかどうかさえも分からなかったのだろう。でも、現代の『神』は、明確に、人間にとってそれと分かる形で意思表示をしている。あ、いや、この表現は些か変か?何せ、現代の『神』は、機械だ。機械による公平な判断を、『意志』表示などと表現することは、その本質から大きく外れていると言わざるを得ないだろう。それなら、どうやって――――――……。あぁ、やっぱり無理。もうどうしようもないぐらいに膨れ上がっている自分の欲望から、思考領域に逃げ込むなんて、これ以上は無理。とりとめのないことを考えて、目を背けていたかったけれど、やっぱり、そんなことは無理だった。弱ェな、俺。

「しゅ、しゅうせい、くん……?」
 悠里ちゃんが、まだ足りないといった感じで、俺を見つめてきた。……いや、これは、俺が悠里ちゃんにそう思っていてほしいという欲目かもしれないが。でも、それだって、それで構わない。どんな理由にせよ、悠里ちゃんが俺を拒まないでいてくれるという、その事実が、俺にとっては――――――――。


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