第58章 罪 前編
そう言えば、そのメーカーって、下着だとか生理用品だとか、そういう商品を扱ってる会社だったっけな、なんて今更になって頭に浮かんだ。そうですよね。それは、何というか、俺としても協力しづらい。流石に、俺が悠里ちゃんに、使い捨て生理用品だの、生理用下着だのを購入して、気軽にプレゼントする訳にはいかない。というかそれ以前に、男性『執行官』である俺が、そんなモノを購入申請に出したところで、許可が下りるのか謎だ。『監視官』であるギノさんがそれを見て、どう思うだろうか。購入申請を、“上”が一々チェックしているかは不明だが、購入履歴として残るのは、少々複雑な気分だ。今更自分の犯罪係数がどうこうなんて考えないが、そんなことで犯罪係数の上昇を疑われるとすれば、それは如何(いかん)とも思い難いものがある。
「…………。」
「…………。」
案の定、ここで会話は再び途切れてしまった。
再び流れる、沈黙。別に、今までにも会話が途切れることはあったし、沈黙が流れるようなこともあった。それなのに気まずく感じてしまうのは、俺の心にやましいモノがあるからに他ならない。どうしようか、そう考えていると、悠里ちゃんの顔が、ふいに俺に近づいた。
「ねぇ、やっぱり、何かある……?秀星くん、いつもと様子が違うような……?」
悠里ちゃんが、心配そうな顔で、俺を覗き込んでいる。
俺の中で、何かが確実に動いた。衝動とも、欲ともつかない、何かが。
「――――――、ん、……っ!?」
俺は、その何かを抑えつけることもせずに、そのまま悠里ちゃんの唇に、自分のそれを重ねた。
悠里ちゃんは、驚きこそすれど、嫌がっている様子は無い。
「……ん、秀星、くん……?突然、どうしたの……?」
唇が離れたところで、悠里ちゃんは目をぱちくりさせながら、俺を見つめた。
「ん……、もうちょっと、いい?」
「うん……?……うん。」
悠里ちゃんは、一瞬だけ戸惑うような瞳を向けたが、すぐに俯いて、目を閉じた。俺の言わんとしていることが伝わったんだと思う。俺は、悠里ちゃんの両頬をそっと包んで、軽く上を向かせた。悠里ちゃんは、頬を少し赤らめながら軽く息を漏らした。