第6章 翳(かげ)
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狡噛さんがドローンを粉砕・壁にクレーター状の窪みを作った件についての書類を作成してから、1週間が経った。あれから、秀星くんと顔を合わせていないし、そもそも仕事が無ければ私は刑事課に行くことが無いし、執行官は刑事課のフロアから外へは出られない。そういえば、連絡先とか、聞いてなかったな、なんてぼんやりと考えていた、食堂での昼休み。もちろん毎日、食堂のランチを美味しく食べているけど、あの日に食べたタコライスの方が、何倍も美味しかった。職務中は、さすがに仕事に集中している、というよりあまりほかのことを考える余裕が無い。けれど、休憩時間とかちょっとした隙間に、ふっと秀星くんがよぎる。よぎったからといって、私の中で何がどうなるということもない。ただ、あの人懐っこい笑顔は、どうにも私の頭から離れない、ただそれだけのこと。
オフィスに戻ると、山田さんが私に話しかけてきた。何でも、この間狡噛さんが粉砕したドローンの代替機を、トレーニングルームに支給するから、管財課からも立ち合いが必要だという話だった。ドローンは、既に八王子のドローン工場から届いていて、管理下での備品登録も完了しているらしい。それなら、今からでも行きますと申し出たけれど、今は一係に出動要請がかかっていて、もう少し時間が経たないと無理、とのことだった。トレーニングルームは別に一係だけが使用するわけではないのだから、何も一係の監視官である必要はないのではないのですか、と質問してみたが、破壊したのが一係の執行官だから、一係の監視官とも話をしないといけないらしい。まぁいいか。定時まではまだ時間があるし、気長に待つとしよう。出動から戻って来れば、宜野座監視官から連絡が入ってくるらしいし。