第57章 ラヴァーズ・パニック Ⅴ
(―――――今だ!)
縢は、左肘を支えにしながら、自らの右足で、オーナーのイチモツを思い切り蹴り上げた。
「んぐおぉぉぉ!!!!!??」
オーナーは、気持ち悪い裏声から、野太い――――恐らくは地声に戻って、奇妙な声を上げた。
縢が押し倒されている体勢の為、それほどの威力は期待できない。しかし、剥き出しになっているイチモツを、仮にも成人男性である縢が蹴り上げたのだ。ノーダメージということはあり得ない。
縢は、オーナーが上体を起こした瞬間に、自らもベッドから飛び起き、追撃の体勢に移った。
縢はベッドの上で自らの股間を抑えているオーナーを全力で蹴り飛ばし、ベッドから落下させた。そのまま勢いを付けて、床に倒れているオーナーの鳩尾(みぞおち)へ踵(かかと)落としを決めた。全体重をかけての、渾身の一撃だ。これで、縢はオーナーを完全にノックダウンさせた。
(ありゃ、もう伸びた?)
だが、ここで攻め手を止めてはならない。このまま、一気にロミオを戦闘不能に追い込まなければならない。
縢は、素早く身を翻(ひるがえ)し、ベッドに横たわる狡噛に乗っているロミオへと駆け出した。
「な……!?」
ロミオも、縢の様子に気が付いている。これほどの体格差だ。できれば、ロミオは不意打ちで仕留めたかったのだが、気付かれてしまった以上、正面切って殴り勝つしかない。単純な筋力勝負では縢の不利だろうが、場数を踏んで得た経験で勝つしかない。