第6章 翳(かげ)
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朝、いつも通り管財課のオフィスへと出勤する。自分のデスクに座ろうと思った瞬間、山田さんが慌てて私に駆け寄ってきた。もしかしたら、昨日の私の仕事で、大きなミスがあったのだろうか。思わず、緊張が走る。
「お、おはようござ……」
「昨日はごめんよ!」
「え?」
山田さんは、心配そうな表情で、私に謝ってきた。
「聞いたよ。昨日は僕が出張だったばっかりに、ひとりで刑事課へ行ってくれたんだって?申し訳なかった……」
「そんな、全然何ともありませんって。難しい仕事はありませんでしたし、力仕事は、全部ドローンがやってくれました。だから、気にしないでください。」
「でも……」
山田さんは、心底私のことを心配してくれているようだった。いや、正確には私の「色相」を、かもしれないけれど。それでも、心配してくれていることには変わりはない。ちなみに、今日も私の色相はクリアカラーだった。時々濁ることはあっても、時間の経過とともにまたもどることがほとんどだから、普段からそんなに色相を気にすることはない。私の持っている携帯端末が、朝に色相を自動で測定して、教えてくれるけれど、朝は時間が無いこともあって、適当に聞き流していることが多い。
「それよりも、昨日の報告書、急いでまとめますね。今から2時間以内には仕上げられるように頑張りますから、チェックをお願いします。」
私がそう言うと、山田さんも出張の報告書があるらしく、自分のデスクに戻っていった。慣れない仕事だけど、今は自分にできることをやろう。