第56章 ラヴァーズ・パニック Ⅳ
縢はオーナーに、ベッドの上でゆっくりと押し倒された。ゆっくりと、躰のラインをなぞるようにして、服の上から体を撫でられ、縢の不快感はさらに増幅した。奥歯を噛んでそれに耐えたが、オーナーの行為は止まることが無い。
(う、うげぇ……。こんなに、気持ち悪いモンか……!)
ぱさりと、カーディガンが脱がされ、ベッドの下に落ちた。元々開き気味の長袖Tシャツの襟をぐいっと下げられれば、全身に怖気(おぞけ)が走った。
「う……、っぐ……」
あまりの不快感に、声を漏らしてしまう縢だが、行為は一向に止まないどころか、加速していく。オーナーは縢のTシャツに手を滑り込ませ、腹から胸を愛撫し始めた。
(気持ち悪ィ……!クソ野郎……!早く終わんねェかな、コレ……。)
僅かに愛撫開始数秒後、内心でそう毒づいてみても、オーナーの手は休まることなく縢を愛撫し続ける。オーナーも興奮し始めたのか、荒い吐息が混じり始めた。
「ねぇ、坊や……?」
熱っぽいオーナーの声が、縢の耳に届き、縢は本当に吐きそうだった。
「キス、してもいい……?」
「は――――はぁ……っ……。」
駄目に決まってんだろうが、ブッ殺すぞ!等と言った言葉が、口をついて出そうだったので、縢は代わりに息を一つ吐いた。
「じゃあ、ココで我慢、してあげる、わ……?」
オーナーは、縢の胸に指を滑らせ、乳首の辺りを、円を描くように愛撫した。
「ん―――――、んんっ――――――!!?」
そして、オーナーは縢の胸の辺りに顔を近づけたかと思うと、乳首をその唇で吸い上げ始めた。
「ん―――――――!??ちょ、はァ―――――!?」
気持ち悪い、粘膜が吸い付くようにして触れる感触。たとえるならば、肌の上に生温かい蛞蝓(ナメクジ)が這いまわっているような、そんな不潔な感触だった。縢は、ギリリと歯を食いしばって、その気持ち悪さに耐えていた。
(―――――クソ、ただ耐えるだけじゃ、犯されるだけだ……!何とか――――何とかしてこの状況を打破しねェと……!)
しかし、縢には何の妙案も浮かばない。縢が何のアクションも起こさないでいるということは、それは即ち、狡噛がよりロミオに弄(もてあそ)ばれ、自身もこのオーナーにいいようにされてしまうということを意味する。