第56章 ラヴァーズ・パニック Ⅳ
「ねェ、坊や……。あたしと、シない?……クスクス……もちろん、悪いようにはしないわ。最高にキモチ良くシてあげる。」
オーナーは屈(かが)んで、縢の首筋をつっと、自らの指の腹で撫で上げた。縢は、出来ることならそのままオーナーの顔面を殴り飛ばしたかったが、その衝動をぐっと堪えた。
「ん……、くっ……!」
縢は、気味の悪い女装男に触れられる不快感のあまりに、苦悶の声を漏らした。しかし、オーナーはその縢の声を、狡噛という恋人以外の男性に触れられたことによる苦痛と受け取った。
「……、アラ……。坊や、一途なのね……?フフ……、そんなところも、あたし好みよ?」
オーナーは、そう言いながら、笑みを深めた。
縢は、不快感と苛立ちでいっぱいだったが、それをぐっと堪えた。
「さ、ベッドへいらっしゃい?そうすれば、坊やの恋人にはそれ以上手を出させずに解放してあげるわ。……悪くない条件でしょう……?」
オーナーは、縢を試すような視線を、遠慮なく向けてくる。縢としては、最早犯罪係数だの色相だのといったことを無視してでも、殴り殺したいほどの衝動に駆られたが、ギリギリでそれを抑えた。
「ん……。わ、わかった……。そういう……、条件、なら……。」
縢は、その胸中を吐き気で渦巻かせながら、ゆるりと立ち上がった。そして、狡噛の声がする方向を見た。鎖で束縛された狡噛と、その上から変態ロミオが覆いかぶさっている、悲惨な状況が目に飛び込んできた。狡噛が全力で抵抗を続けているせいで、今のところ攻防戦ぐらいで済んでいるようだが、長引けば長引くほど、縛られている狡噛が圧倒的不利になる。
(クッソ……!)
ベッドへと移動する時に、先程までロミオと睦み合っていた大男が目に入った。
(そうだ。この忌々しい大男がいるせいで、俺はどうしようもねェじゃん……!)