第56章 ラヴァーズ・パニック Ⅳ
「ホラ、筋肉ダルマ、起きなさい!」
「ぐ……!ぁ……?」
ドン、と何かがぶつかるような声がして、その直後に低い声。
(―――――――!コウちゃん……!)
縢が、聞き間違える筈もない。紛れもない、狡噛の声だった。
ジャラ、と不吉な金属音と共に、狡噛の呻(うめ)き声が聞こえた。
(ジャラ、って……、何の音だよ……!?縛られでもしてンの……!?)
縢は、姿の見えない狡噛を案じた。
縢の不安通り、狡噛はベッドの上に寝かされていたものの、手足を鎖で繋がれていた。その為に、身動きが取れなくなっていたのだ。これでは、流石の狡噛でも、手も足も出せない。
「ハァ……!ハァ……!イイなァ……、オーナー!感謝です……!」
ロミオの声は、明らかに熱を帯びているばかりか、間違いなく興奮している。
縢からは見えないが、狡噛は、そんなロミオの様子を、冷めた目で軽蔑するようにして見ている。その眼には、軽蔑だけではなく、嫌悪の色も滲んでいた。狡噛とて、性欲が無いわけではないが、得体の知れぬ男の性欲の捌(は)け口になる趣味は全く無い。むしろ狡噛は、そのような行為は強く嫌悪する。
「嗚呼、イイ顔、だ……!」
ロミオは、狡噛の様子など意に介する様子も無しに、ひとつひとつ、シャツのボタンを丁寧に外していく。ロミオの仕草は、まるで自らに贈られたプレゼントの包装を、丁寧に解いていくようだった。
「イイ!極上だ……!」
ロミオは、興奮のあまり、声を上げた。縢は、聞いているだけでも不快感で吐きそうだった。
(コイツらの色相も、多分相当に濁ってるんだろうな。)
縢は、迫りくる不快感の中で、そんなことを考えていた。